大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和34年(家)13064号 審判 1960年2月08日

申立人 ユキヲ・ヤマダ(仮名) 外一名

未成年者 長井信夫(仮名)

主文

申立人等が未成年者を養子とすることを許可する。

理由

申立人等提出の各疏明書類ならびに家庭裁判所調査官の調査報告書によると、申立人ユキヲ・ヤマダは一九一六年五月二〇日アメリカ合衆国カリフオルニア州に出生し、同ヤスコ・ヤマダは一九二五年五月○○日同じくカリフオルニア州に於いて出生し、一九四八年九月○日イリノイス州シカゴにおいて結婚し、メリイランド州デイストリクトハイツ、ベルウツドストリート一六に住居を定めた。申立人等夫妻は米国陸軍に勤務し、一九五七年三月共に来日し、爾来肩書住所に居住している。申立人ユキヲは年額八〇〇〇弗の収入を有し、資産としてメリイランド州には家屋を所有し、四五〇〇弗の動産ならびに二五〇〇〇弗の生命保険証書を有しており、申立人ヤスコも収入を得ているので申立人等の生活は経済的に安定しており、明年帰国の予定であるが、帰国後も申立人は軍属の勤務を続ける予定でいるので現在と余り変らない生活が約束されている。

未成年者は一九五九年六月四日日本人長井友子の子として日本に出生したが、母親は月収八、〇〇〇円で未成年者のほか一人子供がいるため生活に困り、幼い未成年者の養育が困難な事情にある。

申立人等は子供のないところから養子縁組を希望し、特に日本人二世として日本人の養子を望み、国際社会事業団(I・S・S)を通じて未成年者をその家庭に引取つて養育しているが、申立人等は未成年者に愛情を持ち、清潔にとゝのえられた住居でゆきとゞいた世話が与えられ、その家庭は子供の養育の環境として適切である。

以上の事実が認められる。

ところで、前認定のとおり申立人夫妻は、アメリカ合衆国人であり、未成年者は日本人であつて、本件はいわゆる渉外的養子縁組であるから、まず本件養子縁組の準拠法について考えてみることとする。法例一九条第一項によると養子縁組の要件については、各当事者につき本国法による旨規定されている。従つて本件養子縁組は養親の本国法たるアメリカ合衆国メリーランド州法、養子たるべき未成年者については日本法によることになる。ところが養子縁組に関する米国国際法の多くの判例学説によると、養子又は養親の住所のある国又は州が養子決定の管轄権(裁判権)を有し、その際の準拠法は当該国法即ち法廷地法であり、この養子決定の管轄をもつ国または法廷地法の手続に従つてなされた縁組は他の国又は州においても承認さるべきものとなつている。(Restatement on Confict of Laws, § 142(a) (b), Beal, Conflict of Laws, 1934, Vo1.11P713, Goodrich, Conflict of Laws, 1949, P447, 参照)

そこで本件についてみると未成年者は日本に出生し、日本に居住していることは前記認定のとおりであるから、本件養子縁組は、前記米国国際法の原則によると養子の住所のある日本に養子決定の管轄権があり法廷地法として日本法が適用されることになる。

このように渉外事件につきわが法例により準拠法として本国法を適用すべき場合に当該国の国際私法上当該事案につき日本法が準拠法として指定されているときは、法例第二九条の所属反致が成立し、結局日本法を適用することになる。

そうすると結局本件養子縁組については、養親、養子いずれの例にも準拠法として日本民法が適用されるべく、従つて民法第七九八条に基く本件許可申立は適法であり、しかも前認定の事実によれば、本件養子縁組は未成年者の福祉にもかなうものと認められる。

よつて本件申立を相当と認め、主文のおりと審判する。

(家事審判官 野田愛子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例